「間に合ってよかった」-ボールペンのしみ抜き依頼-
「間に合ってよかった」-ボールペンのしみ抜き依頼-
私の店には、
衣類に関する様々な悩みごとをお持ちのお客様が来店されます。
最近、特に多く持ち込まれる相談はボールペンのインクのしみ抜き依頼です。
それは、一本の電話から始まりました。
話を聞くと、
トレーナーにボールペンのインクのしみがついてしまい、
他のクリーニング店に前払いでクリーニングを依頼し、
クリーニング代とは別にしみ抜き代として1,100円を支払って預けたものの、
まったくしみが取れていなかったというのです。
私が、
「まったく落ちていなかったですか?」
と尋ねると、
お客様は、
「はい」
とおっしゃいます。
そこで、
「そうなんですね。
残念ですが、一度その実物を見せていただかないと
しみが落ちるかどうか判断することができません」
とお伝えしました。
実物を見ずに、
電話だけでしみが落とせるか判断することは難しいのです。
すると、
お客様は、
「遠方なので、主人に車に乗せてもらって土曜日に伺います」
とのことでした。
そして、土曜日に夫婦で来店されました。
実物を見ると、
写真のように、
どっぷりとインクが盛りあがって付着していました。
かなり面倒なしみ抜き作業になりそうだ、
というのが私の実感でした。
しかし、
その服は娘さんのお気に入りのトレーナーなのだそうです。
洗濯する際に、お父さんの服のポケットにボールペンが入ったままだったため、
そのボールペンのインクが付いてしまったそうです。
ご主人が、
「娘から責められて、ちょっと辛いので、
どうかお願いします」
と、困ったというような表情で話されました。
私には娘はいないのですが、
娘を持つご主人の気持ちは何となくわかるような気がしました。
うっかり汚してしまい、
かわいい娘さんから責められるのは、めちゃんこ辛いのではないでしょうか。
他のクリーニング店に出してもまったくきれいにならなかったときの
お父さんの気持ちがひしひしと伝わってきました。
ご両親には、
「かなり面倒なしみ抜きになります。
上手く取れましたら、
クリーニング料金とは別に、しみ抜き代で3,000円前後いただきます。
しばらくお時間をください」
とお伝えしました。
すると
「時間がかかっても構いません。
どうぞよろしくお願いします」
と話され、
帰っていかれました。
しみ抜き処理は、原則として受付順に行っています。
しかし、今回は、お父さんの想いを受け取らせていただき、
先にお預かりしたお客様のしみ抜き処理よりも早く着手することにしました。
シミが落ちやすいように前処理を行い、
まとまった時間がとれる日にしみ抜きを行いました。
やはり、想像していた以上の難作業になりましたが、
無事にきれいになりました。
写真の通り、
しみ抜きと洗いを行い、
1週間後の土曜日の午前中に、
仕上げまで完了しました。
そして、
店のスタッフからお客様に
出来上がりの電話をさせていただきました。
その際に、
思った以上に難しい作業になり、
最初に提示した金額より上乗せになってしまったことを伝え、
了承いただきました。
お客様は
「たまたま近くにいるので後ほど取りに伺います」
とのことでした。
その日のうちに、受け取りに来られました。
そして、きれいになったトレーナーを見て、
大変喜んでおられました。
そして、お父さんが、
「実は、明日、娘は東京で結婚式を挙げるんです。
間にあって良かった。本当にありがとうございます」
とおっしゃいました。
わざわざお礼に、
有名店の生食パンも持参され、
そのようなお気持ちまでいただけるほど喜んでいただけたことに、
私もとても嬉しくなりました。
娘さんの結婚式前日だったということを、
私はまったく知らなかったのですが、
間に合ってよかった
と私もじーんとしました。
普段は店内でお客様をお見送りするのですが、
とても嬉しくなって、
車までお客様をお見送りしました。
ふと、車の後部座席を見ると、
娘さんが乗っておられ、
こちらに向かってニッコリと微笑んでおられました。
とても素敵な笑顔でした。
今日のこの日!!
娘さんの嫁入り前の最後の日!!
親子3人で水入らずの時間を過ごされたんだと思います。
明日、結婚式で東京に行ってしまう娘さん。
そして、娘さんを東京に送り出すお父さん。
その結婚式の前に、娘さんの大切なトレーナーをきれいにして渡すことができたお父さんの気持ちを思うとこみ上げてくるものがありました。